公開日 2019年2月7日
更新日 2019年2月28日
- 地域
- その他
- 名称
- 贋物を超えた贋物(がんぶつをこえたがんぶつ)
- 所在
- 備考
- 平成5年10月調べ
- 説明
- 時折、新聞やテレビを、美術品の贋物が現れたというニュースが騒がせることがあります。中には何人もの専門家によって鑑定や検討を行わなければならないほど、よくできた贋物もあるようです。
近年の博物館、ことに歴史や民俗といった分野を扱う博物館では堂々と、しかもれっきとした収蔵資料として登録された贋物が、展示ケースの中に納まっていることがよくあります。ただしこれらは本物と間違えて展示されているのではなく、意味があって贋物として作ったものを展示しているのです。
これらは“贋物(フェイク)”ではなく、“複製品(レプリカ)”と呼ばれています。その違いは、偽者が真作のふりをして人の目を欺こうとすることに対し、複製品は複製という前提のもとでその性格を生かして資料として使われる、といった所でしょうか。
博物館などに展示される複製品は、立体的な造形物であれば実物から型をとり、シミや汚れまでを精巧に着色などによって再現します。そのできばえは本物とまったく見分けがつかないほどです。これによって、その博物館から遠く離れた場所にあってそこから動かせないものでも、複製品を造ることによって本物を展示するのと同じ効果を得ることができるのです。特に考古学の分野では、いろんな地域から出土した土器や石器といった遺物の形を比較して文化の成長の様子を知ることが目的ですから、この複製品の利用はまさにうってつけです。
こうした複製品のほとんどは、実物からとった型に硬化プラスチックを流し込んで形を造り、岩絵具(日本画の絵具)で着色したものですが、小さいもので長さ1cmの首飾りの管玉から、大きいもので高さ4mを超える石仏まで、さまざまなものが造られています。
複製品のもう一つのメリットとして、硬化プラスチックで造られるため、大きなものでも非常に軽くできるということがあります。平成5年の6月末から9月半ばまで行われた臼杵石仏の保存修理工事でも、剥落した仏体片をもとの位置に戻す復位作業で複製品が大活躍しました。復位作業は重たい灰石の仏体片を強力な接着剤でくっつける作業ですから失敗は許されません。そのため、仏体片の複製を造って入念に位置合わせを行ってから本番!という慎重な手順をとったのです。細かい割れ目の一つ一つまでを正確に再現できて、しかも軽い複製品は、ここでもその効果を発揮しました。
これが絵画の複製品になると、その作成事業はもっと細かなものになります。まず下地となる紙や布まで本物と同じ材料にするよう努め、絵具まで同質のものを使うことが一般的となっています。そして元絵を正確に、シミの位置まで写しとる作業は本当に神経の磨り減る仕事です。誠に大変な作業なのですが、全く同じ材料を使い、同じように面や色を写しとることによって、ただ絵を見ているだけではわからない元絵の製作者のすばらしい技術が甦ってくることもよくよくあるそうで、複製品の製作そのものが文化の継承という役割を果しているのです。複製品はただの贋物ではなく、立派な資料なのです。
絵画の複製品として臼杵には“南蛮屏風”があります。本物は紙本着色(紙に着色したもの)ですが、こちらは黒地塗の板に写されています。